4月9日に、20年ぶりとなる県知事選挙が行われることになりました。事務局として原発問題をどのように候補者が考えているのか、今後の県政の在り方に重大な関心を抱きました。そこで、県知事選候補者に公開質問状を送付したところ、以下のような回答をいただきました。会員の皆様方の判断材料の一助としていただければ幸いです。

伊方原発に関する大分県知事候補予定者への公開質問状と回答

  

1.原発に対する基本的なお考えについて

2011年の福島原発の惨禍を受けて、原発は即時廃炉ないし段階的に廃炉との国民的な機運が高まりました。しかし、岸田政権は去る2月10日、原発の新規建設や60年を超える運転を認めることを盛り込んだ「原発回帰」の基本方針を閣議決定しました。続いて13日、福島事故の反省から「推進と規制の分離」をうたって発足した原子力規制委員会が、反対意見がある中、多数決で60年を超えた原発の運転を可能にする新制度を認めるという異例の判断。政府は28日、原発の60年超運転を可能にする電気事業法改正案を含むエネルギー関連の5つの法案を「束ね法案」としてまとめて閣議決定し、国会で一括審議をしようとしております。このように、きわめて性急な急転直下の方針変更に私たちは戸惑いと憤りを感じざるを得ません。

そこで、お尋ねいたします。原発政策に対してどのような基本的お考えをお持ちでしょうか。

安達候補 

世界からのカーボンニュートラルの要請、日本のエネルギー資源の乏しさから、原発は重要な電源として開発・運用されてきました。しかし、東日本大震災の際の福島原発での惨禍により、多くの国民のみなさんが原発の維持に疑問を持つようになりました。それがこれまでの規制強化の方向につながってきました。

昨今の政府の行動は、そういった経緯を考慮せず、まるであの事故がなかったかのように進めているように感じられます。まだまだ、被災地の復興は終わっていません。また、現在も原発非常事態宣言は発令中です。にもかかわらず、所管法令を変えてまで進めようとする政府の姿勢には問題があると思いますし、世論調査でも多くの国民の支持は得られていません。

また、核のゴミ問題も解決していませんし、プルサーマル計画もうまくいっていません。やはり放射性物質を処理できない状態で、核のゴミを出し続けるのは危険ですし、将来世代へのツケになります。そのようなことはすべきでないと思います。

カーボンニュートラルやエネルギー不足に対しては、水力や地熱など再生可能エネルギーによる発電をより進めることや、省電技術の向上を図ることで対応が可能と考えています。

ただし、現在稼働中の原発を即時に停止するというのは現実的ではありません。既存のものを活用し、新増設はせずに再生可能エネルギーへのシフトを進めていくべきです。

佐藤候補 

原子力発電の安全性については、しっかりと安全対策を講じなければ大きな事故につながる危険性を持っていると思います。だからこそ、常に安全性を検証して、安全対策を強化しながら、住民の理解と納得を得て進めていくということが大事だと思います。

脱炭素の議論の中では再生可能エネルギーの導入拡大には、地域のコンセンサスやコスト面での課題克服に加えて、出力が不安定な太陽光等の大量導入への対応として、ITや蓄電池などによる地域内の需給バランスの最適化を図る検討も必要となってまいります。

本県では、かねてから、その再生可能エネルギーの導入拡大に努めるとともに、産業振興や地域振興につながるさまざまな先進的な取り組みを行ってきたところです。

九重町の地熱発電や低コストな湯煙発電の開発と、これを活用した分散型発電と余剰熱の有効活用といった、地域内での多段階利用の取り組みなども推進していく必要もありま す。

しかし、発電量の一定規模を占める原子力発電のすべてを停止させることは、円安・原油高による国民生活や経済活動に多大な影響を及ぼすことが危惧されます。少なくとも当面は、原子力発電について、国及び電力会社の責任において、しっかりと安全性を確保し、 住民の理解を得ることが重要だと認識をしております。中長期的には、再生可能エネルギーの導入を拡大して、エネルギー供給のベストミックスを図っていくということも大事であると思います。

国に対しては、既に全国知事会を通じて、原子力発電所の安全確保を初め、再生可能エネルギーの導入拡大を要望しているところであり、国のエネルギー政策見直し議論でも、中長期戦略について、中間的整理として、エネルギーのベストミックス、分散型エネルギーシステムの実現、国民合意の形成の三つの方向性が示されております。

本県としては、地熱や水力など自然エネルギーの供給量と自給率が日本一の県であることから、国の取り組みも見ながら、温泉熱や小水力、バイオマスなど特徴のある再生可能エネルギーの導入促進を初め、関連産業の振興などエネルギー政策に力を入れていきたいと考えています。

2.原子力防災について

本県周辺地域に立地する原子力発電所としては、伊方発電所を初め、玄海原子力発電所、川内原子力発電所があります。大分県では愛媛県からの避難住民受入れの訓練を小規模にしていますが、風向き次第では受け入れどころか、本県が避難を要する場所となる可能性もあります。

福島第一原発事故の経験から、県民(特に妊婦・子ども)の安全を確保し、健康を守るために、原子力防災面で参考にしたい点、あるいは改善して取り入れるべき点(例:安定ヨウ素剤の迅速で確実な服用等)は何でしょうか。

安達候補 

まず危機管理の基本として、平時からの自治体、住民、関係者間の災害行動教育、密なコミュニケーション、人間関係づくりに取り組みます。

現在行われている避難住民の受入訓練は、想定などから現実的なものとは感じられず、再稼働に向けてのアリバイ作りのように思えます。実効性のある訓練の実施が必要です。

安定ヨウ素剤など原子力防災用品の備蓄、避難場所の確保・確認などについては県としてしっかりと取り組みます。

 佐藤候補 

 東日本大震災における福島第一原発事故の福島県及び東北各県の対応状況から、地域防災計画に原子力災害対策として、原子力発電所で事故が発生した際に速やかに実効性のある防護措置が実施できるよう、平成26年3月に、関係機関の執るべき手続きをまとめた大分県原子力災害対策実施要領を策定した。

また事故等災害対策編にも近隣の原子力発電所に万が一の事故が発生し、放射性物質の拡散の影響が本県に及ぶことを想定した災害対策を盛り込んでいる。

地域防災計画は、原子力防災対策の専門的、技術的指針となる「原子力災害対策指針」の知見を踏まえて、関係機関の執るべき基本的事項を新たに定めたもので、大分県原子力災害対策実施要領では、万が一の場合、地域防災計画に基づき速やかに実効性ある防護措置が実施できるよう県関係機関の執るべき手続きをまとめ、原子力災害時の情報伝達・広報活動、環境放射線モニタリング、屋内退避、一時移転・避難、緊急被ばく医療措置、飲食物の出荷制限、摂取制限等、愛媛県からの避難者受入れ、複合災害時の対応などの対策を行うこととしている。

国は原子力施設から概ね30km圏域内を、原子力災害対策を重点的に実施する区域としているが、本県は最寄りの原子力発電所(伊方発電所)から最短で約45kmにあり、この区域外であるが、原子力災害対策重点区域に準じた対策の考え方を基本に、平成27 年3月に国が示した UPZ 外の防護対策の方針も考慮して、本県の対策のあり方や手順を実施要領として定めた。なお、今後示される対策指針等の知見に応じて必要な見直しを行っていく。

万が一の事故の場合、最も本県に影響があるのは伊方発電所であることを踏まえて、県民の安全、安心の確保のため、伊方発電所で起こる全ての異常事象については、本県としても速やかに情報収集し、県民に情報提供を行っていく。このため、愛媛県との間で情報連絡等に関する確認書を取り交わし、重要な異常事象については、愛媛県から直接、通報 連絡が行われる体制を執っている

なお、九州電力(株)の玄海原子力発電所(佐賀県)と川内原子力発電所(鹿児島県)については、本県と100km程度以上の距離にあるため、原子力災害対策特別措置法第10条に規定する通報事象以上の非常事象が起こった場合に、立地県から情報提供を受ける体制を執っている。

原子力災害発生時における事故状況と関連する情報の収集、関係機関への情報伝達及び住民等への広報活動を円滑かつ効果的に実施する。

県民の安全を確保し健康を守るために、緊急被ばく医療措置として安定ヨウ素剤の配布・服用、緊急被ばく医療活動、複合災害時の対応などの体制を万が一の事故等においても即座に対応できるように日ごろから訓練や準備を行う必要がある。